この研究では、複雑な階層組織をもつ材料における局所的な組織変化が組織自由エネルギーに対する外乱により生じることを実証することを目的としている。今年度は、まず、ミクロ組織の局所回復に対する確率共鳴の効果の有無を調べるために、「組織自由エネルギー」の時間変化に基づく時間発展方程式に付加項としての確率共鳴項を導入し、それを用いて加工組織の再結晶に相当するミクロ組織のフェーズフィールドシミュレーションを行った。次に、階層構造の回復に関するシミュレーションを行うために、フェライト系耐熱鋼の基本組織であるラスマルテンサイト相の形成にかかわる因子を抽出し、フェーズフィールド変数の決定を行った。その結果、加工組織に相当する回復過程では、(i)再結晶粒の核形成に必要な活性化エネルギーが大きな場合には、外乱項の寄与はほとんど現れず、回復が比較的均一に生じること、(ii)その活性化エネルギーが小さな場合には、回復が大きく遅延するが、回復を生じた場合には大きな不均一性が生じること、(iii)活性化エネルギーの不均一性が生じる場合には外乱項の寄与が現れ、それにより不均一回復が助長されることが明らかとなった。一方、ラスマルテンサイト相形成におけるフェーズフィールド変数の決定では、ラスマルテンサイト変態で重要な役割を果たしているすべり変形量を変数とすることで、ラスマルテンサイト相形成のシミュレーションが可能であることがわかり、今後、この変形量を用いて発展方程式を書き下すことにより、階層組織の形成・回復の組織シミュレーションが実施できることが明らかとなった。
|