典型的な階層構造組織であるフェライト系耐熱鋼における組織の形成から回復までの一連の変化を組織エネルギーにより表現するために、今年度は、すべり変形モデルを用いたフェーズフィールド法をラスマルテンサイト形成に適用し、マルテンサイト相のラス・ブロック形成過程を明らかにした。具体的には、格子変形とそれを緩和するすべり変形でマルテンサイト変態を記述した。ここで、オーステナイト相の<100>軸のうち、どれがマルテンサイト相のc軸になるかを区別する秩序変数を導入し、格子変形に対応した組成を表した。次に、変態ひずみを緩和するすべり系について、すべり量を表す秩序変数を導入した。これら秩序変数の時間発展を系の全自由エネルギーG_<sys>によって表したAllen-Cahn方程式を数値解析することによって、マルテンサイト相の形成をシミュレートした。その対象材料としてFe-0.1mass%Cを用いた。シミュレーションの結果、生成初期から種類の違うバリアントが隣接して形成される様子が観察でき、自己ひずみ緩和によりマルテンサイト相の階層構造が形成される様子が再現できた。さらに、1つのパケット内の全6種類のバリアントで構成されたサブブロック組織の形成も再現され、我々の変形モデルの正当性が確認できた。さらに、シミュレーションの塑性変形量から計算された転位密度は、7.Oxl0^<l4>m^<-2>であり、Fe-0.1mass%Cの焼入れまま材における転位密度の実験結果と定量的によく一致することがわかった。以上より、このシミュレーションで得られた組織形態はエネルギー的に安定である事が実証されるとともに、ラスマルテンサイト相階層構造の形成メカニズムを明らかにすることができた。
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