「粒界だらけ」の組織である超微細粒あるいはナノ結晶母相からのマルテンサイト変態は、従来の粗大結晶粒母相からの相変態とは大きく異なると考えられるが、全く研究されていない。粒径1μm以下の超微細粒あるいはナノ結晶オーステナイト母相からのマルテンサイト変態挙動を明らかにすることを目的として研究を行なった.Fe-24Ni-0.3C合金を用い、粒径35μmの粗大(通常)粒径材と、粒径200-300nmの超微細粒材を作製し、そこからのマルテンサイト変態挙動を調べた。超微細粒オーステナイトは、Af点以上である600℃においてARB法による巨大ひずみ加工を施し、その後種々の条件で焼鈍することにより作製した。オーステナイト粒径の現象とともに、生じるマルテンサイトプレートの大きさは顕著に減少し、また同一オーステナイトから生じるマルテンサイトは特定の方位(バリアント)を有するようになった。Ms点は、1サイクルのARBにより上昇し、さらにARBサイクル(ひずみ)を増加させるとともに低下した。また、完全再結晶組織を有する焼鈍材の場合には、オーステナイト粒径の現象とともに、Ms点は顕著に減少した。このように、オーステナイト粒径をナノメートルレベルまで減少させたときのマルテンサイト変態挙動を、初めて系統的に明らかにすることができた。
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