研究概要 |
本研究では、孔構造の設計に関する基礎的なシミュレーションの検討から、実際の中空糸膜の作製およびそのモジュール化、さらには実河川水を用いた長期に渡る性能評価といった各階層での検討を詳細に行い、それらを統合化させた一連の検討を行っている。 今年度は特に膜ファウリングに焦点をあて、分離膜の材料である高分子とファウリングの原因物質(ファウラント)の親和性について検討を加えた。材料表面に対するファウラントの付着力をAEMで,吸着挙動をQCM-Dで測定することにより、ファウリング挙動の基礎的検討を行った。 BSA溶液を用いて各種高分子材料から作製した中空糸膜のファウリング挙動を検討した結果、各中空糸膜の純水透過性能はほぼ同等であったが、BSA溶液を透過させた場合ではPVDF膜で大幅に透水量が低下した。また20min毎に逆洗を行いファウラントの除去を試みたが、明確な効果は得られなかった。 QCM-DによるBSA吸着量の測定結果によると、全てのBSA濃度においてPVDF,PES,EVOHの順に高い吸着量を示した。これはファウリングによる透水量の減少の順と一致している。また消散エネルギー変化を考慮した吸着挙動の検討結果より、1000ppmの高濃度条件においてはPVDFの場合でのみ硬い吸着層が形成される事がわかった。 AFMによる付着力の測定を行い、コロイドプローブと高分子表面間の付着力は、いずれの場合も1.3nN程度を示すことがわかった。QCM-Dによる吸着量の検討では高分子材料による差異が見られたが付着力においてはその差異が見られなかったことから、高分子膜表面に一度付着したBSAの剥がれ易さは材料によらないことが示唆された.したがってファウリング実験において逆洗効果が得られなかったことは、単層で膜表面に吸着したファウラントへ十分な剥離力が働かなかったことが考えられる。
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