生体膜の基本構造は、様々な種類の脂質分子から構成される二分子膜構造である。細胞内には、3次元、2次元的に多様な膜構造が存在する。3次元的には、膜孔を備えた核膜や、複雑に入り組んだミトコンドリア膜がある。2次元的には、相転移温度の異なる脂質分子が混合していることに由来する相分離構造(脂質ラフト)がある。このような複雑な膜構造形成は、生体膜を構成する脂質分子の物理化学的性質に大きく依存することが予想されるが、メカニズムに関してはほとんど研究が進んでいない。そこで脂質膜構造形成に寄与するパラメータとして、脂質分子の電荷に着目した。一般に、生体膜はマイナスに帯電しており、プラス電荷の物質が膜表面に吸着することが知られている。しかし、脂質分子の電荷が膜構造自体にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。 中性リン脂質Dipalmitoyl phosphatidyl cholin(DPPC)、コレステロール(Chol)、マイナス電荷リン脂質Dipalmitoyl phosphatidylglycerol(DPPG)の3成分により、巨大リポソームを形成した。脂質膜表面の電位は、DPPG混合比およびNaCl溶液による電荷遮蔽によりコントロールした。リポソームの膜構造(膜小胞形状及び膜表面の相分離構造)を蛍光顕微鏡により観察した。蛍光試料としてTexas Red DHPEを用いた。 電荷脂質DPPGを含まないリポソームは球形で、膜表面は一様であった。DPPG混合比を増加させるにつれて、カップ、シート形状の膜孔をもつリポソームが観察された。さらに、DPPG混合膜では、膜面上に相分離構造が形成された。また、DPPG混合リポソームの電荷をNaClで遮蔽すると、膜孔リポソームおよび膜面の相分離構造加観察されなくなった。以上の結果から、膜面の表面電位により、多様な脂質膜構造が安定化されることが明らかになった。
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