1.低温菌Shewanella livingstonensis Ac10の低温適応機構を明らかにするため、本菌が低温誘導的に生産する膜タンパク質を解析した。その結果、外膜タンパク質のフォールディングや輸送に関わる内膜タンパク質(DegP)、外部環境や細胞膜ストレスに関わるタンパク質(PspA、AtoS)、細胞分裂に関わるタンパク質(MreB)の生産量が、低温で増加していることがわかった。さらに、PspAの欠損によって低温での生育速度が低下することが示され、本タンパク質が本菌の低温での生育に重要であることが明らかとなった。 2.S.livingstonensis Ac10は低温誘導的にエイコサペンタエン酸(EPA)含有リン脂質を生産する。EPA生合成遺伝子を破壊すると4℃での生育速度が低下し、膜タンパク質組成が変化したことから、EPA含有リン脂質が、低温で機能する膜タンパク質の生産、局在、機能に重要な役割を担っていると考えられた。大腸菌の0mpAのホモログであり、低温誘導的に生産される外膜タンパク質0mp74の立体構造形成におけるEPA含有リン脂質の機能を解析した。その結果、EPA含有リン脂質は低温での0mp74の膜への組み込み、および立体構造形成を促進し、C末端側の構造変化を誘導することが示された。 深海由来の好圧好冷細菌Shewanella violacea DSS12におけるEPA含有リン脂質の機能を調べた。EPA生合成遺伝子を破壊したところ、常圧(0.1MPa)での生育には影響が見られなかったが、高圧(30MPa)での生育速度は著しく低下し、細胞が異常に伸長する様子が観察された。細胞分裂サイトで環状構造(Z-ring)を形成するFtsZに対する抗体、およびDNAを染色するDAPIを用いて免疫蛍光顕微鏡観察を行った結果、高圧で培養したEPA欠損株の細胞中には複数の核様体が存在し、また複数のZ-ringが不規則な間隔で形成されることが示された。EPA含有リン脂質は本菌の細胞分裂後期に重要な役割を担っているものと考えられた。
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