研究概要 |
固体高分子形燃料電池の,不透明な電極間に挟まれた高分子電解質膜中における水分分布を計測するために,波長1470nmの近赤外レーザーシート光を用いた計測システムを構築し,さらに改良を加えた.当該年度において,スリットを用い,レーザーシート光のシート厚を調整し,また,検出器側で光学系によりレーザーシート光を拡大して検出することを試みた.さらに,水素ガスの代わりに重水素ガスを燃料として用いた際の可視化も行った.これらにより,電解質膜の面内方向だけでなく,膜厚方向についても,水分分布の可視化を行えるようにした.厚さ0.254mmの電解質膜を用いて膜厚方向の可視化を行ったところ,燃料電池の運転に伴い,カソード側のガス供給流路近傍から濡れ始めることが観察された.この結果は,電池反応のメカニズムを考慮すると,妥当であると考えられる.また,電解質膜内で,水分子がアイオノマーに水和する構造を調べるために,密度凡関数理論(DFT)に基づいた量子化学計算を行い,側鎖末端モデル化合物であるトリフルオロメタンスルホン酸(TFMS)における水和構造を明らかにした.これにより,アイオノマーの側鎖末端スルホン酸基で,ヒドロニウムイオンに水分子が水和する構造が予測され,温度依存赤外分光測定や顕微ラマン分光測定による実験結果とよい一致を示すことがわかった.
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