藍色細菌の生物時計分子装置は時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCの3つの時計タンパク質からなり、ATP存在下の試験管内で24時間周期で自律的に時間発振する。KaiCリン酸化レベルやKaiC ATPase活性、Kai時計複合体の会合・解離の振動が知られている。しかし、Kaiの会合・解離の詳細や時間発振機構は不明である。これまで、KaiA-KaiB間相互作用は検出されていなかった。システイン残基(Cys)を持たないKaiBの特定のアミノ酸残基に一アミノ酸残基置換を導入し、Cys残基にスピンラベルを導入し、スピンラベルをプローブに用いて、ESR法でESRスペクトルを測定して解析した。先ず、KaiBの活性部位であるpositively charged cleftの近傍に存在する64番目の残基をCysに置換してスピンラベルを導入した。この標識KaiBをKaiAと反応させるとESRスペクトルに特異的な変化が検出された。しかし、KaiB単独の場合や、KaiCやネガティブコントロールのウシ血清アルブミンを混ぜた場合には、何の変化も検出されなかった。この変化はKaiAの生理的濃度範囲で起こった。また、KaiBと相互作用したのは時間発振機能のあるKaiA C末端ドメインであった。このKaiA-KaiB間相互作用の産物がKaiA-KaiB複合体としてゲル濾過クロマトグラフィーで検出された。複合体の化学量論はKaiAダイマー2分子に対してKaiBテトラマー1分子であった。一方、分子表面に存在する101番目の残基をCysに置換してスピンラベルを導入した場合には、KaiAと反応させてもスペクトル変化は検出されなかった。したがって、KaiAとの相互作用は64番目残基の近傍で起こること、また64番目残基の近傍で構造変化が起こることを示唆している。
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