紫外線はDNA塩基損傷を引き起こす主要な環境要因であり、細胞死や突然変異などのゲノム不安定性増大の原因となることが知られている。本研究では、出芽酵母をモデル生物として、独自に作製した低線量の紫外線照射(CLUV)下で培養可能な装置を用い、慢性的なDNA損傷によって引き起こされる突然変異誘発の分子メカニズムに関して詳細に解析を行った。これまでの研究から、紫外線DNA損傷修復に関わるヌクレオチド除去修復の破壊株では突然変異頻度が劇的に上昇することを見いだしていたが、今回あらたに、この突然変異の誘発にはDNA損傷トレランス経路に属するDNAポリメラーゼζ及びηが関与していることを明らかにした。特に、DNAポリメラーゼηはこれまでの研究からDNA損傷による突然変異を抑える働きが知られていたが、本実験条件ではむしろ突然変異の誘発に関わっているという興味深い結果を得ることができた。CAN1レポーター遺伝子の前進突然変異検出系を用いた変異スペクトラム解析を行った結果、このポリメラーゼηによる突然変異の誘発は全てシトシンからチミンへのトランジション型変異であることがわかった。ピリミジンダイマー内のシトシン残基は脱アミノ化が非常に速く起こることが知られているが、実際、今回の慢性低紫外線環境ではゲノム上に多くのウラシル残基が蓄積していることを見いだした。したがって、DNAポリメラーゼηは脱アミノ化されたシトシン残基上を乗り越える際にグアニンではなくアデニンを挿入することで結果としてシトシンからチミンへの変異を誘発していると考えられる。
|