嶋田と協力者の石井弓美子(東大・特任研究員)は、動物の持つ記憶や学習能力といった現実の制約を考慮した上で、宿主マメゾウムシと寄生蜂ゾウムシコガネコバチを対象に、行動実験と個体群動態の数値シミュレーションのモデル解析を行ってきた。マメゾウムシは卵殻と産卵忌避物質(脂肪酸)の知覚により豆ごと均等な産卵分布を実現できる。また、寄生蜂は豆内のマメゾウムシ幼虫から出る匂い物質(カイロモン)を学習し、実験系に2種のマメゾウムシを導入すると、多数を占める方を好んで寄生する。餌2種への頻度依存的なスイッチング捕食も可能である。平成20年度は以下の解析を行った。 (1)片方のマメゾウムシに「条件づけ」したゾウムシコガネコバチの歩行軌跡の解析…あらかじめ片方の宿主種に連続寄生させて「条件づけ」した寄生蜂を、アセトン抽出液を表面に塗布した豆に接近する録画解析から歩行軌跡を取得した。 (2)カイロモンの候補になる化学物質を寄生蜂の触覚電図(EAG法)とGC-MSで特定する分析(準備)…寄生蜂の頭部を固定し、宿主の幼虫生体の匂いキャピラリで空気を引いて頭部触角付近に流し、触覚電図の応答とGCMSを連動しながら、カイロモン物質を特定する手法を準備した。 (3)寄生蜂の学習を取り込んだ宿主-寄生蜂系の個体群動態の解析…宿主2種とゾウムシコガネコバチの3者系でlimitedattention(限られた注視能力)によって、一方を注視すると片方の注視が削がれる行動特性をモデル化し、3者系の持続性を解析した。
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