嶋田と協力者の石井弓美子(東大・特任研究員)は、2種のマメゾウムシと寄生蜂ゾウムシコガネコバチを対象に、(i)行動実験、(ii)個体群動態の解析、(iii)連立差分方程式による数値シミュレーションのモデル解析を行った。 (i)一方の宿主マメゾウムシに連続寄生させて「条件づけ」した寄生蜂は、12時間の条件づけで明瞭な選好性の偏りが生じ、24時間~48時間で2倍~3倍もの顕著な選好性の差異が見られることが分かった。また、一方のマメゾウムシのアセトン抽出液を表面に塗布した豆に接近する録画解析から歩行軌跡を取得した。この時、録画解析から歩行軌跡を抽出するシステムを独自に開発し、その汎用性を確信した。その結果、条件づけされた寄生蜂は、一方のマメゾウムシのアセトン抽出液を塗布した豆に集中し、針刺し行動まで見せることが分かった。アセトンで抽出される物質を寄生蜂はカイロモンとして利用していることが分かった。 (ii)個体数動態の時系列データを使い、宿主各種の自己相関では4週間の世代周期が生じていることが分かった。さらに、寄生蜂の選好性と宿主各種のクロス相関を分析したところ、宿主各種の幼虫のステージの個体数に選好性が依存して高いクロス相関を示すことが分かった。ゾウムシコガネコバチは豆内のマメゾウムシ幼虫から出る匂い物質(カイロモン)を学習することが分かったので、累代実験系に2種のマメゾウムシ(ヨツモンマメゾウムシ・アズキゾウムシ)を導入すると、その時点での多数を占める方を好んで寄生するため、マメゾウムシ2種への頻度依存的なスイッチング捕食を示すことが分かった。ヨツモンマメゾウムシとアズキゾウムシは交替で逆位相の増減を繰り返すパターンが長期間見られた。 (iii)このような実験結果をもとに、寄生蜂の学習反応をシグモイド関数で表し、宿主2種-寄生蜂1種系を推移行列モデルの数値シュミレーションを解析した。その解析の結果、捕食圧が中程度のときに、宿主2種とゾウムシコガネコバチの3者系で持続性が最も長期化することが分かった。
|