研究概要 |
(1)地上を流れる温泉水中には,微生物群集が良く発達するが,温泉水自体は貧栄養である.光エネルギーを利用することが微生物群集の発達に関係すると考えられたので,微生物群集中の物質循環とエネルギーの流れを詳しく調べた.長野県の中房温泉の65℃域に発達している微生物マットを研究室に持ち帰り,65℃で培養し水素発生量を測定した.硫酸還元菌の阻害剤を添加すると顕著な水素発生がみられた.その水素発生は,水素は発酵性細菌によって発生しており,硫酸還元菌が消費していると考えられた.同マットから,水素発生発酵細菌の分離に成功した.この微生物マットでは,(1)光合成細菌による硫化水素を利用した有機物合成,(2)発酵性細菌による有機物からの水素生産,(3)硫酸還元菌による水素を利用した硫化水素生産が,サイクルを形成していることがわかった.つまり電子が有機化合物・水素・硫化水素を電子伝達体として循環しており,光エネルギーの供給によって電子がポンプアップされるため,群集内での電子の再利用と保持が可能になっていると考えられる.このことにより貧栄養条件で供給の限られた電子を最大限利用していることがわかった.(2)栄養分の供給が限られた条件で,増殖できない期間をどのように生残しているのかを明らかにするため,紅色光合成細菌の飢餓条件における生残性を解析した.増殖している3種の光合成細菌の細胞を炭素源飢餓条件に置くと,光照射下では約一ヶ月にわたって生菌数の大きな低下は見られないが,暗条件下では生菌数が顕著に低下することがわかった.暗条件における生存率の低下は,3種間で大きく異なっていた.生細胞内のATP量を測定したところ,生細胞内ATP量はほぼ一定であった.このことから生残性を維持するにはATPが関与していると考えられた.光エネルギーによるエネルギー供給が,増殖ばかりでなく,生残にも大きく影響しることがわかった.
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