研究概要 |
高等植物におけるメチオニン生合成の鍵段階を触媒するシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)は,CGS1遺伝子にコードされ,その発現はCGS1 mRNAの分解段階でS-アデノシルメチオニン(SAM)によってフィードバック制御される。この制御にはMTO1領域と名づけたCGS自身のアミノ酸配列がシス因子として作用し,MTO1領域翻訳直後に起こるSAMに応答した翻訳停止とこれと共訳したCGS1 mRNA分解とからなる。リボソームタンパク質L4とL17のトンネル内に突出している領域のアミノ酸配列に部分的な欠失を持つ変異型トランスジェニック・シロイヌナズナ株を用いた解析を行った。トンネル内突出部位に大きな決失を導入したシロイヌナズナ株では,変異型遺伝子の発現量が極めて低かった。これは,大きな決失がリボソームの機能に悪影響をもたらすため,導入した変異型遺伝子の発現レベルが低い株のみが生き残ったと考えられる。一方,突出部位に短い決失を導入したシロイヌナズナ株では内在遺伝子と同等の発現が認められた。以後,短い決失を導入した株を用いて解析を行った。野生型株と変異型株のシロイヌナズナについて,液体カルス培養から調製したmRNAを調べた結果,変異型ではCGS1 mRNA分解中間体の蓄積が減少していることを見いだした。また,変異型株から調製した試験管内翻訳系を用いた解析では,翻訳中間体の蓄積が減少していた。これらの結果から,リボソームタンパク質L4とL17のトンネル内に突出している領域が,CGS1の翻訳制御ならびにmRNA分解に重要な機能をもつと考えられた。
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