本研究では、気孔開閉のシグナル伝達の詳細な分子機構、特に、フォトトロピンにより受容された光シグナルがどうのようにしてH+-ATPaseの活性化を引き起こしているのかについて、生理・生化学的、分子遺伝学的手法を駆使し研究を進めてきた。 フォトトロピンの自己リン酸化部位の同定を行い、キナーゼドメイン中に存在するセリンの自己リン酸化が、その後のシグナル伝達に必須であることを見出した。 また、気孔開閉のシグナル伝達に関わる未知のシグナル伝達因子を同定するために、気孔開度に依存した葉の重量変動、青色光受容体フォトトロピンが仲介する反応の一つである葉の横伸展等を指標にしたシロイヌナズナの気孔開度変異体のスクリーニングを網羅的に進めてきた。 葉の重量変動を指標にしたスクリーニングでは、気孔が閉じているstd変異体2ラインと、気孔が顕著に開口しているftd変異体2ラインを単離した。このうち、ftd1と名付けた変異体は、常に気孔が大きく開口しており、気孔を閉じさせる植物ホルモン・アブシジン酸に対して非感受性に表現型を示す新奇の変異体であった。そこで、マッピングによる原因遺伝子の同定を進めた結果、アブシジン酸との結合能からアブシジン酸受容体として報告されているMg-キラターゼHサブユニットに新奇のミスセンス変異を持っていることが明らかとなった。 青色光受容体フォトトロピンが仲介する反応の一つである葉の横伸展を指標にしたスクリーニングでは、最終的に20株の気孔が顕著に開口し、葉が平らに伸展した変異体を単離した。これらのうち、db10-2と名付けた変異体の孔辺細胞では、細胞膜H+-ATPaseが常にリン酸化され活性化された状態にあるため気孔が顕著に開口した表現型を示すことが明らかとなった。
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