研究概要 |
無脊椎動物から脊椎動物への進化の過程において、脊椎動物に特有な内分泌機構の進化を明らかにすることを目的とする。材料とするナメクジウオは、本研究グループの今までの成果から、脊椎動物の生殖内分泌機構の祖先型モデルであるということができる。本年の成果は大きく4項目になる。(1)昨年クローニングしたナメクジウオの唯一の糖タンパク質ホルモンであるサイロスティムリンのリコンビナントをカイコの系を用いて作成し、ヘテロダイマー形成を確認した。これにより、下垂体ホルモンの唯一の候補であり、脊椎動物の糖タンパク質ホルモン4種類の祖先型であることが強く示された。(2)性ステロイド代謝経路で5α還元型ステロイドが重要であることを昨年明らかにしたので、その作用を調べるため、ナメクジウオの5α-レダクターゼ遺伝子の発現の極微量定量系を確立し,性ステロイドホルモン処理をしたナメクジウオにおける5α-レダクターゼ遺伝子の発現の変化を解析した。発現量は,各種の性ステロイドによって大きく変化し,5α-レダクターゼ遺伝子の発現が性ステロイドホルモンによって調節されることが示唆された。(3)神経葉ホルモンであるバソプレシンの遺伝子発現を神経索で調べた。脳胞前部腹側部に強く発現していた。糖タンパク質ホルモンの遺伝子発現と合わせて、ナメクジウオの神経索は、内分泌器官に相当する部位特異的な内分泌部域があることが明らかとなった。このことは、神経内分泌系が脊椎動物への進化の直前まで重要であり、脊椎動物になってから神経系と内分泌系の分化があったことを示唆する。(4)様々な生物のゲノム配列を用いて、ペプチドホルモンおよびペプチドホルモン受容体遺伝子の網羅的解析を行った。また、ナメクジウオを含む様々な脊索動物のゲノム配列から、ペプチドホルモン受容体と相同性のある嗅覚受容体遺伝子を網羅的に解析した。
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