繁殖機構の地理的分布に関しては、前年に引き続き、ウメマツアリの各地の個体群からサンプルを採集し、雌雄間に遺伝的分化が見られるかどうかを調査した。その結果、短翅型では6つの個体群で、核ゲノム上のオプシン遺伝子の配列は雌雄間で異なっていた。この結果から、各個体群で雌雄独立に無性生殖を行っていることが示唆された。しかし、地域により、雌雄特異的な配列が他の地域と逆になっている例が見いだされた。なぜこうなり、ここでも雌雄の無性生殖が起きているのかを知るためには、核ゲノム上の他の遺伝子やワーカーの配列を調べるなど、さらなる調査か必要である。長翅型では、岡山の個体群でオスの中に両タイプの配列が見られた。したがって、この個体群では、有性生殖が行われている可能性がある。通常の有性生殖が行われている場合、ワーカーの中にホモ接合とヘテロ接合の両方の個体が見られると予想されるので、今後、オスのサンプル数を増やすと共に、ワーカーの遺伝子型の解析を進め、この問題に解答を与えていきたいと考えている。 繁殖機構の生理的メカニズムに関しては、産卵直後の卵を蛍光染色し、欄内の核の挙動を調べる実験を行った。その結果、最初、核は卵端に存在し、極体を放出しながら卵の中央に向かう様子が観察された。父親のクローンがどのように生じるのかを知るため、1)受精卵からのメスゲノム排除仮説と2)無核卵内での精子のみによる発生仮説の2つの仮説をを作業仮説として識別作業を行っている。オス予定卵内の核にメス由来のゲノムが含まれているかどうか確認するため、チューブリン染色による核由来の同定や、卵核DNAに対する、雌雄ゲノム特異的プライマーによるPCR増幅などの手法を用い、どちらの仮説が支持されるかの検証作業をすすめている。
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