研究課題
本研究では、ヤモリ類を題材にして次世代シーケンシング技術を駆使したミトコンドリアゲノミクスの研究手法の開発を行ない、ミトコンドリアゲノムの分子進化の解明、ヤモリ類の系統進化・歴史生物地理に関する仮説の検証を目指している。平成22年度は、前年度までに最適化した実験手法を用い、26種のミトコンドリアゲノムの並列解析を試みた。このうち4種は配列既知のミトコンドリアゲノムであったが、まずそれらの塩基配列が正確に再現できることを確認した。新たに10種のヤモリ類についてミトコンドリアゲノムの全長塩基配列を決定したが、構造遺伝子の同定結果とも併せ、それら塩基配列の信頼性の高さが推測された。このうち2種のミトコンドリアゲノムにおいて、コードされる遺伝子の異常が見られた。一つは遺伝子の配置変動であり、ND4L遺伝子からND4遺伝子に至る約2kbpの領域がタンデム重複し、重複遺伝子の一方が偽遺伝子化していた。また、恐らくこの配置変動と連関してグルタミンtRNA遺伝子の重複・転座が見られた。また別の1種において、グルタミン酸tRNA遺伝子のミトコンドリアゲノム上からの脱落が示唆された。これらの異常については、関連するタクソンのミトコンドリアゲノムを調査することで、その系統的分布や生成機構に迫っていこうと考えている。平成22年度までに得たヤモリ類ミトコンドリアゲノムの遺伝子情報に立脚し、分子系統樹の作成を行なった。その結果、ヤモリ類のなかでヒレアシトカゲ科が最も初期に分岐し、続いてトカゲモドキ科が分かれたとする系統関係が強く示唆された。この結果は、形態的情報に基づく伝統的なヤモリ類の系統分類と異なるが、我々及びGambleらが2008年に示した結果と整合的である。次年度以降、さらにヤモリ類の多くの種について本法を適用してデータを収集し、ヤモリ類の系統進化と生物地理の仮説の検証を詳細に行ないたい。
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BMC Evolutionary Biology
巻: 10 ページ: 141
Annual Review 2009. Graduate School of Natural Sciences, Nagoya City University
巻: 14 ページ: 35-43
http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~kuma/index.html