本研究では、ヤモリ類を題材にして次世代シーケンシング技術を駆使したミトコンドリアゲノミクスの研究手法の開発を行ない、ミトコンドリアゲノムの分子進化の解明、ヤモリ類の系統進化・歴史生物地理に関する仮説の検証を目指した。平成23年度は、前年度までに得られたデータを用いて行った予察的な系統解析の結果に基づき、新たに15種を選びヤモリ類ミトコンドリアゲノムの並列解読を行った。併せてミトコンドリアゲノムの遺伝子配置に異常が認められたカワラヤモリ属やヘラオヤモリ属の様々な種に関して、ミトコンドリアゲノムの部分塩基配列を解読し、遺伝子配置の変動のタイミングと分子メカニズムの推定を試みた。その結果、キタアフリカカワラヤモリで見られた大規模な遺伝子配置変動は必ずしもカワラヤモリ属内に広く共有されているわけではないこと、逆にマダガスカルヘラオヤモリで見つかったグルタミン酸tRNA遺伝子のミトコンドリアゲノム上からの脱落は、ヘラオヤモリ属で広く共有される特徴であることが判明した。また前者の遺伝子配置変動の分子メカニズムとして、重複したアルギニンtRNA遺伝子のアンチコドン領域に点突然変異が入ることでグルタミンtRNA遺伝子へ再指定されたことが強く示唆された。脊椎動物のミトコンドリアtRNA遺伝子の分子進化でこのような再指定が起きた例は殆ど知られておらず、興味深い事例の発見と思われる。ミトコンドリアゲノムを用いて分子系統樹の作成を行なったところ、ヤモリ類のなかでヒレアシトカゲ科が最も初期に分岐し、続いてトカゲモドキ科が分かれたとする系統関係が更に強く示された。しかしギャンブルらが2008年に提唱したユビワレヤモリ科の妥当性を支持する結果は必ずしも得られなかった。この点についてさらに深く検討を重ねたい。
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