研究概要 |
クサウオ科のサケビクニンについて昨年度までの調査で海域ごとに遺伝的・形態的に分化した複数種が含まれていることが明らかになり、これらに適用すべき学名を決定するため、タイプ標本を調査した。初年度のキンカジカ類やサケビクニン類は海域ごとに分化しており、海洋構造が種分化に大きく関わっていると考えられる。ハゼ科のハゼクチおよびワラスボについて有明海と黄海の個体群を遺伝的に比較した。いずれの種も日本国内では有明海のみに分布しているが、韓国-中国沿岸の個体群との分化の程度は明らかにされていなかった。ハゼクチについては有明海産64個体、韓国産(黄海)37個体を分析に用いた。ミトコンドリアDNA調節領域部分配列約460bpを決定したところ、有明海産および韓国産のハプロタイプ多様度はそれぞれ0.585,0.868であり、有明海産では多様度が低かった1、両個体群間に共通するハプロタイプは無く、樹形図分析においてもそれぞれが別個のクレードを形成した。これらの結果より、有明海の個体群は大陸沿岸の主要分布域からは長期間隔離されており、ボトルネックを経た集団を形成していると考えられた。ワラスボについては、有明海産78個体、韓国産(黄海)11個体を用いた。調節領域の部分配列436bpを分析したところ、両個体群に共通するハプロタイプが複数出現し、それぞれが別個のクレードとはならなかった。このことから、ワラスボは海域間の分化程度がハゼクチより小さいことが示された。これらの他、ウミタナゴ科アカタナゴについて伊豆半島の西と東の個体群に遺伝子と形態に違いがあることがわかった。その他、朝鮮半島南西岸固有のコウライカスベを新属として記載し、東アジア産コモンカスベの地理的変異の結論を得た。
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