本研究では、ペプチドグリカン層を貫く細菌べん毛ロッドの形成機構を明らかにするため、X線結晶構造解析法と電子顕微鏡法を組み合わせて、ロッドキャップFlgJの構造、FlgJのペプチドグリカン分解活性発現機構、ロッドおよびロッド・キャップ複合体構造の解明を目指している。本年度の主な成果は以下のとおりである。 ・ 構造解析に成功したペプチドグリカン分解活性を有するFlgJのC末フラグメントの酵素化学的性質を詳しく調べた。その結果、FlgJの至適pHは中性付近であること、FlgJは微量のカチオンによって加水分解活性が著しく阻害され、生理的塩濃度下では殆ど活性を持たないことが明らかになった。このことは、通常の状態ではFlgJによる溶菌の危険性が押さえられていて、ロッド形成時に何らかの活性発現機構が働いてペプチドグリカン層を分解している可能性を示している。 ・ 構造に基づく変異実験から、K207が活性部位であるドメイン間の動きを引き起こす引き金となることを明らかにした。また、基質と相互作用し、加水分解反応に適した状態に基質を固定する役割を果たす残基を同定した。 ・ 逆伸長法により、フック側からFlgG-FlgFの順でロッドが構成されていることを示した。また、精製したフック、FlgG、FlgFを用いて、フックからFlgFまでの再構成に成功した。 ・ ロッド蛋白質FlgGのNC末のフレキシブルな領域を切断したフラグメントから1.7Å分解能まで回折する新たな結晶の作成に成功した。
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