研究概要 |
今年度は、FACT-ヒストン複合体の結晶化を目的に研究を進めた。高度に精製されたFACTとヒストンを用意し、両者が相互作用することを確認した。結晶化にはこれらを混合して調製した複合体を用いた。幾つかの条件で結晶が得られたものの、全て低分子結晶であった。結晶化の過程で、FACTとヒストンを混合すると沈殿が生じることがあるなど、試料の挙動が不安定であった。そこで、凝集体や沈殿がほとんど発生せずに複合体が存在する溶液条件を確立するために、種々の溶液中における凝集体発生の程度を評価した。具体的には、50mMの緩衝剤、0.3M KCl,5% glycerol,5mM 2-mercaptoethanolの組成の溶液に対して蛋白質試料を加え、動的光散乱分析から粒子径分布を調べた。緩衝剤に酢酸ナトリウムを用いたpH4-4.8の溶液ではFACTのみの添加で直ちに白濁したが、他の溶液中(pH5.9-8.3)における凝集体の割合は、最大でも約12%だった。このpH5.9-8.3の条件下でFACTにヒストンを加え、複合体形成に最適と思われる条件を見つけ出した。ヒストンとしては、H2A-H2B二量体、H3-H4四量体、H2A-H2B-H3-H4八量体を用いた。いずれの場合も、緩衝剤としてクエン酸ナトリウム(pH5.9)もしくはHEPES(pH7.2)を用いた場合に比較的良好な結果が得られることが分かった。これらの結果を参考に複合体試料の調製を行い、さらなる結晶化条件のスクリーニングを行なっている。まだ結晶は得られていないが、このような地道な努力を続けることで結晶化の成功につながると考えている。
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