大量に蓄積されてきているゲノム情報に対して、物理化学的パラメータによる高精度タンパク質分類システムをいくつか用意し、生物種による違いを比較する。そして、進化の問題について新しい視点から検討することにしている。平成20年度は、2つの側面からゲノムからの全アミノ酸配列の解析を行った。膜タンパク質についてのシミュレーションであり、もう一つは電荷分布によるタンパク質の分類であるが、主として後者について集中的に研究を進めた。ヒトゲノムから得られる全アミノ酸配列に対して、電荷の自己相関関数を計算したところ、意外にも非常に鋭い28残基の周期性が見られた。自然の変異ではこのような鋭い周期性は起こらないので、進化の過程でこのような性質を持ったタンパク質が発生し、維持されてきたと考えられる。そこでこの周期性を持ったタンパク質を全アミノ酸配列から抽出し、その数を全遺伝子数に対して相関を調べてみた。300種類近い生物種についての解析を行ったのだが、脊椎動物以外の生物種における比例関係と脊椎動物のそれがはっきり違う傾きを示していた。つまり、この28残基の電荷周期性を示すタイプのタンパク質が脊椎動物の進化において初めて発生したと考えられるのである。物理的なパラメータによるタンパク質の分類を行ったことによって、進化的に非常に重要なタンパク質のファミリーが見出されたと考えられるのである。さらに、脊椎動物だけで発生したタンパク質がどのような機能を持っているかを解析したところ、ほとんどすべてがジンクフィンガータンパク質というDNA結合タンパク質であると推定された。膜タンパク質については、アミノ酸配列に対するランダムな突然変異をコンピュータ上で導入するシミュレーションを行ったところ、アミノ酸の組成だけを保存すれば、配列をランダム化しても膜タンパク質の割合が変化しないという興味深い結果を得た。
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