タンパク質ワールドというのは、ファミリーの間にタンパク質の変換可能性があり、タンパク質全体はその反応の平衡状態にあるというコンセプトである。本研究では、物理的なパラメータによる高精度タンパク質分類法を用いて、ゲノムからの全タンパク質の高精度分類を行い、タンパク質ワールドの高精度分類を行い、タンパク質ワールドの性質を明らかにすることを目的としている。また、膜タンパク質を例として、タンパク質ワールドというコンセプトの根拠とを示すための実験とそれに対応するシミュレーションを行う。具体的には、次の2つの側面から研究を行う。一つは、主に水溶性タンパク質の分類を電荷分布の解析であり、もう一つは膜タンパク質の膜貫通領域の引き抜きの実験と粗視化シミュレーションとの比較である。前者では、ゲノム配列から得られるアミノ酸配列を電荷の配列に変換し、その自己相関関数を計算し、ゲノム比較を行う。平成21年度たは、200種以上の生物ゲノムについて比較を行ったところ、28残基の周期性が見出され、それが脊椎動物のみで顕著に増大していた。タンパク質ワールドという従来のコンセプトでは、具体的な生物界における進化について提案はなされていなかったが、本研究では各生物ゲノムにおけるタンパク質ワールドを比較することができた。後者の膜タンパク質に関連する研究では、アミノ酸配列が膜を通り(膜に埋め込まれる)プロセスが素過程として本質的である。原子間力顕微鏡を用いたフォースカーブの測定は直接その素過程を調べる手法として最適である。平成21年度には、実際に膜タンパク質のフォースカーブ測定を行うことができた。また粗視化シミュレーションの手法も合わせて開発した。さらに、多くのゲノムからの全アミノ酸配列を開発済みの膜タンパク質予測システムで解析し、膜貫通ヘリックスの数についてタンパク質ワールドのコンセプトに合致する結果を得た。
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