研究課題/領域番号 |
20370062
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
片岡 幹雄 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (30150254)
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研究分担者 |
上久保 裕生 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (20311128)
山崎 洋一 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (40332770)
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キーワード | 動力学的転移 / ボソンピーク / 核酸分解酵素 / 中性子非弾性散乱 / 中性子準弾性散乱 / 水和水 / 振動スペクトル / タンパク質動力学 |
研究概要 |
蛋白質は、極低温や低水和の条件下では機能しない。水和や熱揺らぎが蛋白質の機能に影響を与えていると考えられる。本研究では、Staphylococcal nuclease(SNase)を用い、蛋白質ダイナミクスに対する水和の効果を中性子散乱により調べた。 水和率の異なる3種類のSNease試料について、それぞれ100Kから300Kの様々な温度で中性子非弾性散乱データを測定した。すべての測定温度で、5meV以上の高エネルギー領域では、水和量の違いによる蛋白質ダイナミクスの変化は観測されなかった。高エネルギー領域のスペクトルは局在した運動に起因する。これらの運動には水和の効果が現れないことを意味する。一方、低エネルギー領域では、顕著に水和の効果が現れる。 100Kでは、すべての試料で、ボゾンピークと呼ばれる2-4meV付近のブロードなピークが観測される。ボソンピークは蛋白質全体に広がった運動モードに起因し、蛋白質が弾性体であることを示す。水和によりボゾンピークの位置は高エネルギー側にシフトする。この結果は、水和水による水素結合が、蛋白質を硬くすることを示している。300Kでは、高水和試料のみに、強い準弾性散乱が観測されるのに対し、低水和試料は脱水和試料と同様のスペクトルを示す。この結果は、準安定構造間をジャンプする蛋白質の非調和運動を活性化するための水和量に閾値があることを示す。生理条件下では、この閾値をはるかに超えているため、機能をもたらす非調和な運動が活性化されることが保証されていることがわかった。低温では水和は蛋白質を硬くし、室温では蛋白質をやわらかくする。蛋白質動力学の調和的性質と非調和的性質に対する水和の効果が全く異なることが初めて示された。
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