蛋白質の立体構造の役割は、化学反応の静的な場を提供することに加え、動的な性質により反応を空間的、時間的に制御することである。したがって、蛋白質機能の分子レベルでの理解のためには、機能を支えるダイナミクスを理解する必要がある。本研究においては、蛋白質機能を支える蛋白質ダイナミクスを解明することを目的としている。本年度は、特に水和水の蛋白質ダイナミクスへの影響の解析を中心に研究を進めた。 蛋白質機能発現に必須な非調和な運動は、水和水によって活性化される。しかし、「水和水のどのような性質が蛋白質の働きを可能にするか」という問題に正面から取り組む研究はほとんどなかった。我々は、中性子非干渉性散乱と分子動力学(MD)シミュレーションにより、蛋白質の動力学に対する水和水の影響を定量的に調べた。蛋白質は、低温(50K)から温度を上げていくと、240K近傍で非調和な運動が活性化し、構造変化が可能になって機能を発現する。我々はこの転移の水和率依存性を詳細に求め、水和率0.37以上でこの240K転移が起きることを示した。また、MDシミュレーションにより、水和水構造の水和率依存性を調べ、水和率0.37でパーコレーション転移が起きることを示した。パーコレーション転移点以上で、水和水間の水素結合ネットワークが蛋白質を取り囲む。さらに、パーコレーション転移の前後の水和水の動きを、軽水水和試料と重水水和試料の測定から評価し、パーコレーション転移により水和水は大きく動けるようになることを示した。これらの成果は、タンパク質の働きに必要な水和水の本質的な性質を明確に示した最初の研究であり、高く評価されるものである。
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