細菌べん毛は、細胞膜を透過するイオンの流れをエネルギーとして回転する生体超分子モーターであり、約25種類以上の異なった蛋白質から構成される。現状では、その回転の機構はほとんどわかっていない。本申請研究では、イオン流のモーター回転力への変換を担う細胞膜中のナトリウムチャネルPomABの三次元構造を、低温電子顕微鏡法、X線結晶回折法により高分解能で解析し、回転機構の解明を目指している。 昨年度構築したPomAB複合体の発現系を改良して得た初期結晶から、SPring-8において放射光を使ったX線回折実験を行った。現在、結晶の改善のため、種々の条件検討を進めている。また、ホモログ蛋白質発現系の構築、結晶化を行った。一方、電子顕微鏡法による解析では、単分散したPomAB試料の単粒子解析、電子線トモグラフィー観察を続けている。同法では、分解能は限られるが、結晶化することなく試料の三次元構造を解析することができる。効率よく電子顕微鏡観察を行うためには最適な試料の作製が重要となるが、本年度は同目的のため、試料支持膜作製用カーボン蒸着装置を導入した。また、トモグラフィーの自動撮影のための環境を整備し、これにより定常的に傾斜像撮影を行えるようになった。現在、低温電子顕微鏡法により生理的な環境に近い状態の構造を、より高い分解能で解析するべく、条件の検討、構造解析プログラムの改良を進めている。 今後、低温電子顕微鏡法、X線結晶構造解析法の両者を相補的に用いて、イオン流のモーター回転力への変換機構の解明を目指す。
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