研究概要 |
蛋白質の細胞内フォールディングを介助する分子シャペロンとして知られる、大腸菌のシャペロニンGroELには、本来のATP結合部位の外に第二のATP結合部位の存在することが、われわれの最近の研究により明らかとなりつつある。本研究では、この第二ATP結合部位を、蛍光エネルギー移動、光親和性標識、質量分析、アミノ酸配列分析、ストップトフロー蛍光法、滴定型熱量計などの手法を用いて同定する。昨年度までの研究で、アジ化ATPアナログによる光親和性標識と蛋白質分解酵素などによって、Tyr360が第二ATP結合部位の近くにあることが示唆された。また、ATP結合によるGroELのアロステリック転移と第二ATP結合部位へのATP結合は溶液中のカリウムイオン(K^+)濃度に大きく依存することも明らかとなった。以下の研究を行った。 (1)アロステリック転移に及ぼすK^+の影響:pH7.5,10mM MgCl_2の条件下で、KCl濃度を0,10,50mMに振って、GroEL(Y485W変異体)のATPによるアロステリック転移の速度過程をストップトフロー蛍光法を用いて調べた。その結果、速度定数のATP濃度依存性において、50mM KClで観測された第二のATP結合に対応するとされている二つ目のシグモイドが0と10mM KClでは全く観測されなかった。また、KClなしでは、ATPのアロステリック転移そのものが観測されないが、ATPの結合に伴う蛍光変化は観測された。 (2)滴定型熱量計(ITC)によるGroELへのATP結合測定:KCl非存在下ではGroELのアロステリック転移は起こらないが、ATP結合を観測することはできたので、この結合を、ITCを用いて観測することを試みた。5℃では明確な滴定曲線を観測できた。今後、さらに条件を変えて測定し、得られた結合定数を(1)の速度論的測定から得られたものと比較したい。
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