昨年度の研究において、複製フォーク進行阻害の回復について大きな進展が見られた。RecAタンパク質とDNA Pol VによるDNA複製の再開は検出できなかったが、DNA Pol IV (DinB)ではLeading鎖およびLagging鎖上でバイパスDNA合成が極めて効率良く生じ、Leading鎖上の損傷で停止していた複製フォークが再開することが示唆された。そこで、本年度は、DNA Pol IVによる複製フォークの再開の分子機構の解明に焦点を絞って、以下の研究を行った。1)精製した酵素を用いた生化学的な解析により、Pol III HEのDNA鎖伸長がPol IVによって強く阻害されることを発見し、阻害の仕組みとして、Pol IVがPol Vを積極的に鋳型DNAから解離させること明らかにした。その後の解析により、DNA上でβクランプと安定に結合しているPol IIIがDinBの働きによりDNAから解離することが見いだされた。この発見は、世界ではじめてDNA損傷による複製フォークの阻害が損傷乗り越え型DNAポリメラーゼの働きにより解消されて再開することを示したことになる。2)細胞内ではPol IVが単独で作用しているのではなく、様々なタンパク質と複合体を形成して働く可能性が考えられる。これを検証するためにプロテオミクス解析を行ったところ、Pol IVと相互作用することがすでに報告されているβクランプに加えて、単鎖DNA結合タンパク質SSBがPol IVと安定な複合体を形成することが見いだされた。SSBがPol IVの活性や機能を制御するかどうかについては現在検討を行っている。
|