本研究は、動物の受精卵における、カルシウム/カルモジュリン(Ca^<2+>/CaM)依存性のタンパク質脱リン酸化酵素カルシニューリン(CaN)の生理的役割の解明、および、Ca^<2+>/CaM依存性タンパク質キナーゼタイプII (CaMKII)とCaNの活性制御の相互連関性の解析、の2つを通じて、動物の受精卵において胚発生の開始を制御しているカルシウムシグナル経路の分子基盤解明への手掛かりを得ることを目的としている。本年度は、受精に依る卵の賦活の際に、CaNによって化学修飾を受ける蛋白質のうち、特に表層蛋白質に着目して、その分子的実体を検索した。未受精卵の単離表層をγ^<32>P-ATPを含む成熟未受精卵抽出液中でインキュベーションした後、リン酸化蛋白質をSDS-PAGE/オートラジオグラフィーで解析した。その結果、単離表層中の蛋白質がリン酸化されることが確認され、単離表層中のリン酸化酵素の少なくとも一部が活性状態を保ち、その基質も存在していることが示された。また、そのリン酸化パターンは卵抽出液のものとは明らかに異なり、表層特異的なリン酸化が検出できていることが示唆された。また、恒常活性化型CaNで処理することにより、リン酸化標識された表層蛋白質が脱リン酸化されることが確認された。その主なものとして、32Kおよび95KDaの移動度を示すものが含まれていたが、その同定は今後の課題である。これらの結果は、卵抽出液と単離表層を組み合わせることで、卵の賦活時にCaNやCaMKIIによって修飾される表層蛋白質の生化学的解析に道が拓かれたことを示している。
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