動物の体の形作りにおいて原腸形成は発生初期に起きる重要な形態形成運動である。この過程の細胞運動制御にWnt/PCP(平面内細胞極性)シグナルが重要であることが明らかとなってきたが、そのシグナル伝達メカニズムは解明されていない。私達は、このWnt/PCPシグナルの細胞内伝達が、ユビキチン化経路によって制御されていることを明らかにした。本研究では、このユビキチン化経路がどのような分子メカニズムによってWntシグナルを制御しているかを解析することを目的とする。β-TrCPはユビキチンリガーゼ複合体を形成し、さまざまなタンパク質をユビキチン化することが知られている。我々は、アフリカツメガエル胚においてβ-TrCPをノックダウンすると、原腸形成運動が阻害されることから、β-TrCPを含むユビキチンリガーゼ複合体が発生過程で重要な役割を果たしていることを明らかにした。今年度は、このβ-TrCPが、細胞接着分子カドヘリンに結合することを見いだした。β-TrCPはカドヘリンをユビキチン化することによってその局在を変化させた。さらに、Wnt/PCPシグナルコンポーネントであるPrickleが、β-TrCPとカドヘリンとの結合やそのユビキチン化を調節することもわかった。これらの実験結果から、我々は、細胞接着分子の新しい局在制御機構を提唱した。カドヘリンは、原腸形成運動する細胞同士の相互作用に密接に関わっている。この結果は、これまで謎だったWnt/PCPシグナルによる原腸形成運動の制御機構を明らかにする上でも重要な発見である。
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