本研究は、脊椎動物の性決定システムを分子レベルで比較解析し、性決定・性分化におけるシステム進化を議論・提案する事を目的としている。2年目である本年度は、初年度の成果を受け、以下の解析・考察を行った。1. 脊椎動物の性決定システム進化に関して、以下の仮説を提唱した(比較内分泌学2009)。脊椎動物の性決定様式は遺伝的(雄ヘテロ型の性染色体構成のXX/XY型、雌ヘテロ型のZZ/ZW型など)と環境依存的があり、多様であるが、哺乳類(真獣類)以外の脊椎動物種には、性決定システムの基盤としてDMRT1依存性の雄化システムが存在する(種分化過程で例外がある可能性はある)のに対し、哺乳類(真獣類)では、その進化過程でシステムの脱構築・再構築が起った。2. 研究代表者らがZZ/ZW型種の性決定遺伝子として初めて発見したアフリカツメガエルDM-W遺伝子(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2008)に関して、以下の事がわかった。DM-Wは、Fox12、Cyp19遺伝子のZW(遺伝的雌)未分化生殖巣での特異的発現を誘導する(Sex Dev.2009)。DM-Wは、精巣形成上位遺伝子DMRT1の機能を阻害することにより卵巣形成を導く可能性がある(論文リバイス中)。3. 哺乳類(真獣類)のY染色体上の性決定遺伝子Sryと同様にSox3の重複進化で生じたSox15遺伝子は、真獣類進化過程で筋再生・胎盤形成のために新機能付加(neofunctionalization)された遺伝子である可能性を考察する等、プロモーター進化を含む遺伝子進化と遺伝子発現および機能との連関性についての考察を報告した(Int.J.Biochem. Cell Biol. 2010)。
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