1.精神的ストレス負荷時の中枢神経系反応を確認するために、暗算課題と騒音暴露の各々に対する脳血液動態と事象関連脳電位(P300)を調べた。暗算課題では、前額部から計測した酸素化ヘモグロビン濃度は、課題の開始に対応して増大し終了に対応して減少を示した。一方、騒音暴露ではそのような対応は示さず明確な変化傾向は認められなかった。また、前額部(F7)から導出した事象関連脳電位(P300)では、暗算課題の前後で振幅が増加したが潜時は変化しなかった。一方、騒音暴露の前後ではP300の振幅は変化しなかったが潜時は短縮した。このように、循環器系反応、特に血圧の変化では同様の変化傾向を示すことが確認されている異なる二つの精神的ストレスであるが、中枢神経系の反応には明らかな違いがあることが示唆された。したがって、本研究がめざす全身的協関によるストレス適応能の解明の意義を再確認することができた。 2.これまでの実験結果をさらに解析・考察し、精神作業中の循環系と中枢神経系の反応を全身的協関係の視点から検討した。その結果、短期記憶を主な要素とする精神作業を遂行している間、拡張期血圧の変化量と左前額部から計測した脳血液動態(酸素化ヘモグロビンの変化量)との間に有意な正の相関関係が認められた。また、心拍数と拡張期血圧の変化量の間にも同様の有意な正の相関が認められた。これらの結果は、精神作業に伴うストレス反応の全身的協関仮説(精神作業⇒交感神経賦活⇒血圧上昇⇒脳への血液供給増大⇒精神作業)の一部を支持するものであった。
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