研究概要 |
作物の形態は重要な農業形質と密接に関連している.たとえば,小穂は子実形成に直結し,内外頴の大きさは種子の大きさに強く影響する.また,葉の中肋の形成はイネの草型に影響する.本研究は,形態改変によるイネの分子育種・品種改良を将来の目標として,イネの葉の中肋形成,花や花序(小穂・穂)の発生・分化の遺伝的分子機構を明らかにすることを目的としている. DL遺伝子は,葉において中肋の形成を支配する鍵遺伝子であり,花においては心皮(雌ずい)のアイデンティーの決定遺伝子でもある.これまで,DLが葉の中肋予定領域で発現するために必要な制御領域を同定してきた.その成果を活用して,葉の中肋構造の増強をはかり,葉の直立性を高めるための研究を行った.まず,DLが転写因子をコードしていることに着目し,強い転写活性能をもつVP16の転写活性化ドメイン領域とDLとの融合遺伝子を作製した(DL-VP16).次に,中肋予定領域で特異的に発現するための必要充分な因子をもつDG1配列を用いて,DL-VP16を発現させた.その結果,pDG1::DL-VP16形質転換体では,本来中肋が形成されない葉の先端まで中肋が形成されるようになり,中央部から基部の中肋も太くなることが示された.植物体全体を見ると,葉はより直立していた.次世代形質転換体を成育させその形質を調べた結果,pDG1::DL-VP16の次世代形質転換体は調べた独立の9系統すべてにおいて葉が直立していた.したがって,世代を経ることによって,エピジェネティックな変異などにより,外来遺伝子の機能が損なわれていないことが確認された. DLの機能をさらに詳細に調べることを目的として,d1変異を昂進あるいは抑圧する変異体の探索を行った.ガンマ線照射によって変異を誘発したM2世代から,垂れ葉の表現型が昂進あるいは抑圧される変異体をスクリーニングしたが,1次候補は得られたものの,最終的に変異体を単離することはできなかった.さらに,効率の良い変異源処理として,受精卵へのMNU処理を行った.次年度以降,同様のスクリーニングを行い,さらにDLの機能を深く理解するための,遺伝的アプローチを進める予定である.
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