研究概要 |
1.イネ品種日本晴の染色体の一部を品種カサラースに置換したいくつかの染色体断片置換系統に対し,人工気象気を用いて高温処理を施し,葯の裂開特性と高温耐性との量的関係を検討した.葯基部に生じた裂開の長さと35℃及び37℃の昼温条件下で開花した穎花の稔実率との間には正の相関関係が認められた.また,稔実の温度反応曲線からもとめたT50(稔実率が50%に低下する昼温度)は,葯の基部と頂部に生じた裂開の長さでよく説明された(R^2=0.907,P=0.0026,n=8).これらの結果から,育種により,葯基部の裂開を100μm長くすることで,高温による不稔の発生を20%程度低下させ,高温不稔耐性を0.7℃改善できると見積もった.頂部の裂開が高温耐性に及ぼす影響は頂部のそれに比べて小さいが,100μm長くすることで高温耐性が0.3℃改善できると見積もった. 2.世界のイネコアコレクション(NIAS),日本のイネコアコレクション(NIAS),中国のイネコアコレクション等を対象に,イネの開花時の高温耐性にかかわる形質の変異の幅,および,それらの形質と高温耐性との関係を調べた.高温不稔への耐性に密接に関係する葯基部の裂開の長さには1,590μmの変異が認められた.この変異は4℃の耐性の差異に相当すると考えられた.穎花の蒸散コンダクタンスには,340mmol・m^<-1>・s^<-1>の変異が認められた.解析の結果,340mmol・m^<-1>・s^<-1>の蒸散コンダクタンスの差異は3.8℃の穂温の差異となる場合があると考えられた.開花時刻には,3.5時間以上の品種間差異が存在した. 3.以上より,葯の裂開,穎花の蒸散コンダクタンス,開花時刻の変異とそれらの改良による耐性向上の効果が明らかとなり,育種によりどの程度耐性の向上が可能かを大雑把ではあるが量的に見積もることが可能となった.
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