研究概要 |
イネ属(Oryza)は、世界の熱帯・亜熱帯地域を中心に分布する23種からなる農業上重要なグループで、その生育地は湿地を中心として多様である。本研究では、栽培イネと野生イネについて葉の構造と機能特性の変異の実態を明らかにして、光合成を制御している要因を検討する。本年度は、イネ属植物の光合成速度(Pn)にどのくらいの変異があるのか、Pnとどのようなガス交換パラメータが相関しているのかを検討した。また、C3,C4植物葉の光合成細胞壁の厚さを調査した。 野生イネ19種26系統、栽培イネ2種5品種をハウス内で育成し、光合成ガス交換特性を測定したところ、Pnには6.8〜22.7μmol m^<-2>s^<-1>までの変異が見られた。イネ属植物では、Pnと葉内へのCO_2拡散に関わる要因との間に高い正の相関があることが明らかとなった。その他、栽培イネのPnが高いことには、葉が厚く葉緑素含量が高いことも関わっていると考えられた。一方、野生イネで最も高いPnを示したO. brachyanthaは、葉が薄く葉緑素含量も低く、栽培イネとは異なる要因により高いPnを達成していると考えられた。イネ属の葉における気孔特性を測定したところ、気孔密度は表側表皮より裏側表皮が高かったが、気孔サイズには大きな差はなかった。Pnと気孔密度には正の相関があり、またその相関は裏側表皮よりも表側表皮の方が高かった。 野外で採取したイネ科及び双子葉のC3植物19種とC4植物19種について、電子顕微鏡により葉肉細胞と維管束鞘細胞の細胞壁の厚さを調査した。イネ科双子葉ともに葉肉細胞壁はC4植物よりもC3植物が厚く、反対に維管束鞘細胞壁はC3植物よりもC4植物の方が厚かった。このことから、C4植物では葉肉細胞はCO2の取り込みに有利な構造を持ち、維管束鞘細胞はCO2の漏出を抑制する構造を持っていることが明らかとなった。
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