研究概要 |
イネ科のイネ属(Oryza)は熱帯・亜熱帯地域を中心に分布する23種からなる農業上重要なグループで、その生育地は明るい湿地から半陰地まで多様である。本研究では、栽培イネと野生イネ等について葉の構造と機能特性の変異の実態を明らかにして、光合成を制御している要因を検討する。 本年度は、昨年度に比べ比較的低い土壌窒素条件下で、野生イネ14種23系統、栽培イネ2種5品種をハウス内で育成し、光合成ガス交換特性を測定した。光合成速度(Pn)は昨年度に比べると全体に低かったが、種間によるPnの変異の傾向は昨年度と類似していた。Pnと気孔伝導度(Gs)、葉肉伝導度(Gm)および葉緑素含量との間に高い正の相関が見られた。一方、葉の気孔特性については、PnおよびGsと表側表皮の気孔開口ポテンシャル(密度密度×孔辺細胞長)との間に正の相関が見られた。また気孔開口ポテンシャルとSLW(比葉重)との間には高い正の相関が見られ、厚い葉を持つものほど葉内へのガス交換を容易にする気孔特性を発達させているものと考えられた。10種のイネ属植物について光合成・光呼吸酵素の活性を測定し、高いRubisco活性、低いC4光合成酵素活性、および高い光呼吸酵素活性を持つことを明らかにした。このため、今回調べた種についてはいずれも典型的なC3光合成を働かせているものと考えられた。昨年度の実験で見出されたC3,C4植物の光合成細胞細胞壁の厚さの変異が、植物全体としてみるとどのように位置づけられるかを検討するために、7種のCAM植物について葉肉細胞の細胞壁の厚さを調査した。その結果、CAM植物の葉肉細胞はC3,C4植物の葉肉細胞に比べはるかに厚い細胞壁を持ち、C4植物の維管束鞘細胞に匹敵することが明らかになった。このことから、植物の光合成細胞壁の厚さは光合成型やCO_2、H_2Oの拡散プロセスと密接に関わっていると考えられた。
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