研究概要 |
イネ属(Oryza)は熱帯・亜熱帯地域を中心に分布する農業上重要なイネ科植物で、その生育地は明るい湿地から半陰地まで多様である。本研究では、イネ属植物における葉の構造と機能特性の変異の実態を明らかにして、光合成を制御している要因を検討する。 イネ属21種45系統について光合成窒素利用効率を調査し、約2.4倍の変異があることを見出した。またグループ間で比較すると、O.sativa野生種(AAゲノム)とO.brachyantha(FFゲノム)の光合成窒素利用効率はO.sativa栽培種(AAゲノム)よりも有意に高かった。これまでの調査により高い光合成速度(Pn)を示すことを明らかにしたO.barchyanthaとそのコントロールとしてO.rufipogonを育成し、生育過程におけるPnの推移を調査した。O.brachyanthaはO.rufipogonに比べ生育後期まで高いPnを維持し、気孔伝導度(gs)に対するPn(Pn/gs値上)も高いことを明らかにした。 イネを含む9種のイネ科C3種について、葉における維管束鞘細胞(BSC)の機能的意義を電子顕微鏡による構造観察と免疫電顕法による酵素蛋白質の蓄積調査により検討した。いずれの種においてもBSCに含まれる葉緑体の数は葉肉細胞(MC)に比べ少なく(MCの20%~59%)、大きさも小形であった(同53%~77%)。ミトコンドリアについてもBSCはMCに比べ少なく(同30%~75%)、小形であった(同46~85%)。一方,葉緑体におけるRubisco蛋白質の蓄積密度にはMCとBSCの間で大きな差はなかったが、ミトコンドリアにおける光呼吸酵素のグリシンデカルボキシラーゼP蛋白質の蓄積密度はMCに比べBSCで低い傾向を示した(同36%~90%)。この結果、イネ科C3植物のBSCは光合成や光呼吸を行っているが、MCに比べその活性ははるかに低いことが明らかとなった。
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