研究概要 |
前年度は,セイヨウナシ果実の樹上完熟を阻害するtreeファクターを解析するために,果実の発育・成熟に関与する転流物質に着目した。その結果,転流物質の流入を阻害することで果実のエチレン生成および成熟が促進されること,さらには果実離層部にNAAを処理することによって落下が抑制され,樹上においても果実が完熟することが示された。本年度は,セイヨウナシ果実を収穫することによって,果実内の代謝がどのように変化するか調べるために,収穫した'ラ・フランス'果実をただちに20℃で追熟する追熟区と収穫適期以降も樹上で成熟を行う樹上成熟区を設け,収穫適期1,2,4,8,16日後の果実のメタボローム解析を行った。また,ニホンナシ'豊水'についても追熟区を設け,セイヨウナシとの比較を行った。その結果,セイヨウナシのデンプンおよび主要な糖について,樹上成熟区と比較して追熟区では,デンプンと転流糖のソルビトールが収穫2日後から4日後にかけて急激に低下した。また,デンプンの分解に伴って、追熟初期はスクロースが,後期はグルコースとフルクトースの単糖が増加した。ニホンナシでは,転流糖のソルビトールとスクロースが減少し,グルコースとフルクトースが増加した。このことから,果実に転流される糖が果実成熟に重要な役割を持ち,収穫すると転流が阻害されるため,果実内の炭水化物代謝が急激に変化すること判明した。CE-MSによるメタボローム解析の結果,セイヨウナシの追熟区では,ソルビトール6-リン酸,フマル酸,リンゴ酸、グルタミン酸,バリン,アラニンなどの代謝物が減少し,逆にコリン,ガラクツロン酸は増加することが判明した。今後,これらの変化が果実の追熟あるいは樹上成熟とどのような関係があるか解析する。
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