研究概要 |
一般に,セイヨウナシ果実は樹上では軟化がほとんど進行せず,収穫後に追熟処理を施すことによって完熟する。一方で,以前の研究では,果実離層上部の枝に環状剥皮処理を施すことによって,樹上でも果実のエチレン生成および成熟が促進されることが明らかになっている。そこで,本研究では,セイヨウナシ果実の樹上成熟中における代謝動態を把握することを目的として,環状剥皮処理を施したセイヨウナシ果実のメタボローム解析を試みた。 実験には,山形大学農学部実験圃場植栽のセイヨウナシ'バートレット'3樹を供試した。試験区として,収穫適期以降も樹上で成熟させる樹上成熟区,収穫適期に収穫し20℃で追熟する追熟区,収穫適期に果実離層上部の枝に環状剥皮処理を施し樹上で成熟させる環状剥皮区の3区を設けた。収穫適期以降,エチレン生成量,果実硬度,果皮色を経時的に測定するとともに,HPLCを用いて糖含量を測定し,酵素法でデンプン含量を測定した。また,CE-TOF/MSを用いて果実中のイオン性代謝産物分析を行った。 エチレン生成量は,樹上成熟区では実験期間を通して低いレベルで推移したのに対して,追熟区および環状剥皮区では急激に増加した。果実硬度および色相角は,エチレン生成量に対して負に相関した。また,追熟区および環状剥皮区ではデンプン含量が減少し,糖含量が増加したが,樹上成熟区ではともに大きな変化がみられなかった。しかしながら,これらのすべてには,追熟区および環状剥皮区間で差異が生じた。さらに,得られたメタボロームデータの主成分分析は,追熟処理果実および環状剥皮処理果実間における代謝の明確な差異を明らかにした。 これらの結果から,追熟処理および環状剥皮処理はともに果実のエチレン生成および軟化を促進するが,それぞれの代謝には明確な差異が生じることが示された。
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