本研究はイネを材料に、真性抵抗性遺伝子(R)依存的に起動する過敏感細胞死における活性窒素種の関与を明らかにするとともに、細胞死抑制型ユビキチンリガーゼEL5と相互作用することが明らかになった解糖系酵素GAPDHの、活性窒素シグナリングにおける新機能を明らかにすることを目的とする。本年度は、蛍光タンパク質(DsRed)を付加したGAPDHを発現するイネ系統を用いて、細胞死に伴うGAPDHの細胞内局在変化を蛍光顕微鏡で観察した。その結果、カルスではキチンエリシター処理などで細胞死を誘導すると一部の核においてDsRed蛍光が検出され、その後、細胞全体の蛍光が認められなくなることが明らかになった。また、このDsRed蛍光の核局在はEL5の機能抑制変異カルスでより顕著であった。EL5の機能抑制変異イネ根では、亜硝酸処理によって一部の表皮細胞においてDsRed蛍光が核で検出されるようになった。以上の結果から、一部のGAPDHは細胞死に伴って細胞質から核に移行することが示唆され、EL5によってその移行が抑制される可能性が考えられた。 また本年度は、(亜)硝酸処理後の側根形成部位における活性窒素および活性酸素の蓄積部位について、EL5の機能抑制変異イネと非形質転換イネの相違を詳細に解析した。その結果、活性窒素(NO)については細胞死が誘導されない非形質転換イネでも検出されることが明らかになった。一方、活性酸素(特にSuperoxide)は細胞死が誘導される変異EL5イネ根でのみ検出された。そこで次に、亜硝酸と同時に活性酸素生成阻害剤で処理した結果、変異EL5イネ根の細胞死は誘導されなくなった。以上の結果から、EL5は硝酸態窒素吸収に伴う活性酸素生成を抑制することによって根形成に寄与していることが強く示唆された。
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