性フェロモンを害虫防除に直接利用することに加え、その生産を撹乱することで昆虫の雌雄間の交信を制御し、次世代の増殖を抑制することが考えられる。そのためには、生合成過程の詳細なメカニズムを解明する必要があり、これまでカイコなどを材料に研究が展開されてきた。一方、シャクガやヒトリガなど進化したガ類昆虫では、末端の官能基を含まない構造上の特色を有する化合物(不飽和炭化水素およびそのエポキシ誘導体)が性フェロモンとして利用されており、その生産様式もかなり異なることがわかってきた。本研究ではそれらの性フェロモンに注目し、生合成経路とそれに関わる酵素の諸性質を明らかにすることを目的として研究を行った。 1) アメリカシロヒトリの性フェロモン生合成経路:標識前駆体を用いて、アルデヒド2成分はアルコールから、エポキシ2成分は不飽和炭化水素から、フェロモン腺に存在する異なる酸化酵素の働きで生合成されることを実証するとともに、その基質特異性を明らかにした。 2) エポキシ化酵素の同定:エポキシ化酵素の実体を明らかにすべく、フェロモン腺で発現している遺伝子のライフラリーの作成を行った。得られた遺伝子群の中からその数個の候補を絞り込むことができ、今後行う機能解析により遺伝子の同定は完了する。 3) アオシャク類のフェロモンの同定:12-位に二重結合を含む新規ポリエン化合物は多くのアオシャク類の主要な性フェロモン成分であることがわかった。それらを前駆体とするエポキシ化物を分泌する種の存在が考えられたため、多数のモノエポキシ体を系統的に合成し、新規エポキシ成分の同定に役立つ分析データを集積した。
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