研究概要 |
アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス(NPV)をカイコ由来のBmN細胞に感染させると,全タンパク質合成停止が誘導され,ウイルスは不全感染となる.この全タンパク質合成停止機構を明らかにする目的で,感染細胞におけるRNAの分解に注目して研究を行った.まず,ウイルス感染細胞から定量的にRNAを抽出する方法を検討し,続いて,アメリカシロヒトリNPV感染にともなうBmN細胞のtotal RNA量の変動を調査した.その結果,感染の初期段階にBmN細胞のtotal RNA量は急激に減少することを示した.次に,キャピラリー電気泳動装置MultiNAを用いてtotalRNAの電気泳動パターンを解析した.その結果,感染後0時間の細胞から抽出したRNAは,約2000ntの位置にメジャーな太いバンドとして検出され,バンドのサイズとRNA全体に占める割合から,このバンドがrRNAであると判断した.カイコNPVの感染細胞においては,rRNAのバンドは感染後24時間においても変化なく,感染を通して一定に検出された.一方,アメリカシロヒトリNPV感染細胞では,rRNAのバンドは感染後4時間から減少が認められ,感染後48時間ではほとんど検出できないレベルまで減少した.さらに,感染後8時間から,約1500ntの位置にバンドが検出され,rRNAが断片化を経て分解されることが明らかとなった.ウイルス感染による細胞のRNAの分解がNPVに一般化できる現象であるかどうかを知るため,様々な昆虫細胞と各種NPVの組み合わせで感染実験を行い,感染細胞におけるRNAの動態を調査した結果,アメリカシロヒトリNPV以外にもAutographa californica NPV感染によって,同様のrRNA分解が誘導されることを明らかにした.
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