研究概要 |
カイコ由来のBmN細胞や,マイマイガ由来のLd652Y細胞に,アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス(HycuNPV)やAutographa californica MNPV(AcMNPV)を感染させると,細胞に全タンパク質合成停止が誘導され,不全感染となることが報告されているが,この全タンパク質合成停止機構は明らかになっていない.そこで,全タンパク質合成停止機構の解明を目的として,感染細胞のRNAに着目した.BmN細胞とLd652Y細胞を用いて,NPV感染に伴うtotalRNA量の変動とキャピラリー電気泳動システムによる電気泳動バターンの変化を調査した.その結果,HycuNPVとAcMAPVに感染したBmN細胞では,total RNA量が感染後24時間までの間急激に減少した.RNAの電気泳動パターンを調べた結果,rRNAのバンドが減少し,rRNAの分解断片が観察された.一方,BmN細胞で増殖感染となるカイコNPV(BmNPV)を感染させた場合には,このようなRNAの減少や分解は認められなかった.また,HycuNPVとAcMNPVに感染したLd652Y細胞では,totalRNAの急激な減少や分解は認められなかった.以上の結果から,BmN細胞での全タンパク質合成停止はRNAの分解によって起こることが示唆された.一方,Ld652Y細胞での全タンパク質合成停止機構は明らかではないが,BmN細胞のものとは異なることが示された. AcMNPVにBmNPVのp143遺伝子を組換えたvAcbmp 143は,BmN細胞で増殖することが報告されている.そこで,bmp143遺伝子を形質転換用ベクターに挿入して,BmN細胞に導入し,抗生物質であるピューロマイシンで選抜することによって,bmp143を構成的に発現するBmN細胞,BmN/bmp143細胞を作出した.AcMNPVが増殖できるかどうかを調査した結果,AcMNPVはBmN/bmp143細胞において増殖し,多角体の形成が認められた.そこで,AcMNPVを感染させたBmN/bmp143細胞のRNAを調査した結果,BmN細胞で観察された急激な減少や分解は認められなかった.以上の結果から,bmp143遺伝子産物によって,BmN細胞におけるRNAの分解は回避されることが明らかとなった.
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