ドラッグデリバリーシステムを用いて、改変ペプチドに膜透過機能とガン細胞指向機能を付与し、ガン細胞特異的な薬物輸送と抗ガン活性を調べることを本年度の目的とした。 ガン細胞や血管上皮細胞において過剰発現しているインテグリンαVβ3に対して指向性を持ち、さらに細胞内移行機能を持つ環状型RGD配列をドラッグデリバリー配列として用いた。カブトムシディフェンシン由来改変ペプチドのN末端にシステインを含んだ環状型RGD配列(CfRGD)とジスルフィド結合を形成させることにより複合体を合成した。 環状型RGD-改変ペプチド複合体は、細胞表面のインテグリンαVβ3の発現が多いヒト血管上皮細胞(HUVEC)内に取り込まれ、ミトコンドリアの膜電位の消失を引き起こすのに対し、インテグリンαVβ3の発現が少ないCos-1細胞には取り込まれず、ミトコンドリアは正常状態を保った。このことから、環状型RGD-改変ペプチド複合体はインテグリンαVβ3発現依存的な細胞内移行とアポトーシスを誘導することで、インテグリンαVβ3発現細胞特異的な細胞毒性を示すことが明らかとなった。 改変ペプチドと細胞内ミトコンドリアとの電気的相互作用をさらに高めるために、環状型RGD-改変ペプチド複合体のC末端に静電荷を持つアミノ酸であるアルギニンを付加したところ、インテグリンαVβ3発現細胞に対する細胞毒性の上昇が観察された。しかしながら、アルギニンを6残基含む複合体{cRGD-cys-D-peptide C(R6)}では細胞選択性が維持されていたのに対して、アルギニンを8残基含む複合体{cRGD-cys-D-peptide C(R8)}の非選択的細胞毒性は抑制されなかったことから、{cRGD-cys-D-peptide C(R6)}の選択的細胞毒性はインテグリンαVβ3指向的な環状型RGDに依存している一方、{cRGD-cys-D-peptide C(R8)}の非選択的細胞毒性は無差別的な細胞内移行配列であるオクタアルギニン(R8)に依存している可能性が示唆された。 本研究により作出された{cRGD-cys-D-peptide C(R6)}は、一部のガン細胞に加え、血管内皮細胞に対しても高い細胞毒性・細胞選択性を示すことから、治療薬としての可能性をもつことが分かった。
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