研究概要 |
昆虫由来がん細胞増殖抑制物質の探索の結果、タカサゴシロアリ磨砕液の上清よりこれまで報告されたことのない新規の1,1’-biphenyl-3,3’,4-triol (BPT)が同定された。 本年度は、このBPTがどのようなメカニズムでがん細胞の増殖を抑制するのかについて調べてみた。方法として、ヒトがん細胞株39系統を用いたがん特有因子の阻害試験とがん細胞増殖抑制活性の評価を行い、その化合物の作用メカニズムおよび分子標的の予測をインフォーマティクスによる化合物評価系であるヒトがん細胞パネルを用い調べた。 具体的にはヒトがん細胞株39系統に対するBPTのIC50値の決定と(1)プロテインキナーゼ阻害活性の評価、(2)クラス選択的ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性の評価、(3)アンドロゲン受容体(AR)シグナル伝達阻害活性の評価、(4)低酸素誘導因子(HIF)制御活性の評価、(5)上皮―間葉転換(EMT)制御活性の評価が行われた。さらに、これらの結果を既知の抗がん剤の結果と比較することによりその活性メカニズムの推測を試みた。その結果、BPTはがん細胞増殖抑制活性の有効濃度はやや高かったが、39種のヒトがん細胞株(肺がん7種、胃がん6種、大腸がん5種、卵巣がん5種、脳腫瘍6種、乳がん5種、腎がん2種、前立腺がん2種およびメラノーマ1種)に対し、differential growth inhibitionが認められた。また既知の抗がん剤との比較から「Results of compare」の値が0.5≦r<0.75となり、その作用メカニズムがユニークである可能性が示された。 これらの結果から、BPTは既存の抗がん剤とは異なるメカニズムでヒトがん細胞の増殖を抑制していることが示唆され、今後それがどのような新たな機作なのかを明らかにすることが重要だと思われる。
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