イネのRBCS遺伝子導入により、Rubiscoを増強し、現在より低CO_2レベルでの光合成機能の向上をねらった。Rubiscoは葉緑体と核遺伝子の両方にコードされるが、核コードのRBCS遺伝子導入のみでRubisco量の増強には成功した。しかし、葉内では部分的な不活性化を伴い光合成機能の向上には結びつかなかった。現在のCO_2レベルでのバイオマス生産や成長パーラメータにもwild-typeとの差は認められなかった。現在は、Rubiscoの葉内での活性化を制御するRubisco activaseの遺伝子RCA4の破壊系統とアンチセンス体を入手し、Rubiscoの生体内での活性化機構を解明中である。さらに、コムギをモデルとした北方適応型の光合成の特徴を理解し、イネとコムギのRBCL遺伝子のタバコ葉緑体導入を目指した。イネの光合成の至適温度は30から35℃の範囲にあり、コムギは25から30℃にあった。それは、低温下の光合成がRubisco活性に強く律速されることと、コムギRubiscoのkcatがもともと高いことによった。また、その光合成の温度応答と生体内の活性化率の変化にも種間差あるがわかった。総じて、Rubiscoの活性化率の変化は葉緑体ストロマの還元状態の指標となるNADPリンゴ酸脱水素酵素(MDH)の活性化状態と相関があったが、両種のNPQ(チラコイド膜δpHの指標)の温度応答には明確な差は見いだせなかった。
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