RBCS遺伝子導入イネでは、Rubisco量を増強することにより、低温環境や現在より低いレベルでのCO_2分圧下での光合成機能の改善と個体レベルでのバイオマス生産の向上をねらった。昨年度までの結果で、Rubisco量の増強は現在のCO_2レベルでの光合成機能の改善には結びつかず、バイオマスの増産の効果もなかった。要因は、Rubiscoの量的増加分だけ、生体内ではRubiscoの不活性化が生じていることであった。本年度の結果では、63日目の個体レベルでのバイオマス生産では、RBCS過剰生産イネが低温環境および低CO_2分圧下でWild-type系統のバイオマス生産を有意に越えることがわかった。特に低温条件での差が大きかった。このことは、Rubisco量の増強が、冷涼な環境でのバイオマス確保に有力な手段であり、北方適応型高バイオマスイネの一つのモデルになることを示した。光合成解析は現在進行中である。また、RBCS過剰生産イネのRubiscoの活性化低下の要因を探るため、メタボローム解析を行ったところ、3-PGA、FBPおよびS7Pの1.4から1.5倍程度の増加が認められた。RuBPには変化がなかったが、CO_2同化の初期産物(3-PGA)の蓄積、カルビン回路鍵酵素、SBPaseの産物であるS7Pの蓄積はRuBP再生産系の律速が強くなっている結果を示唆した。Rubisco量を減少させRubiscoの律速性を高めたイネではまったく逆の関係が認められた。なお、ATPとADPおよびNADPHとNADP+には有意な差は見られなかった。一方、Rubisco activase量を増減させたRCA遺伝子のセンスおよびアンチセンスイネの15℃と25℃の光合成速度に与える影響について調べたが、差はなかった。このことはRubisco activase量が光合成速度の温度応答に影響するものではないことを示した。
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