研究概要 |
細菌のアクチン様細胞骨格タンパク質MreBは、細胞膜の内側に長軸に沿ってらせん状に局在しており、細胞の桿菌形態の維持に機能している。A22[S-(3,4-dichlorobenzyl)isothiourea]はMreBに特異的な阻害剤で、MreBらせん構造を破壊することにより大腸菌を球菌化させる。A22処理によって増殖は次第に低下するが、細胞は溶菌しない。大腸菌の主要なペプチドグリカン合成酵素の一つであるPBP1Bを欠損したmrcB変異株をA22処理すると細胞が溶菌することを見出した。溶菌を引き起こす原因を明らかにするために、PBP1Bと相互作用が報告されている溶菌酵素MltAと機能未知タンパク質MipAの関与を調べた。また、MltAのホモログであるMltB、MltCについても調べた。その結果、MltBとMipAの欠損により、MreBとPBP1Bの同時欠損による溶菌が抑制されることを見出した。また枯草菌ではMreBの欠損による致死性と形態異常が高濃度のMg^<2+>の添加により抑制されることが報告されているため、この溶菌現象に対するMg^<2+>の効果を調べた。その結果、MreBとPBP1Bの同時欠損による溶菌もMg^<2+>により抑制されたが、細胞形態は回復されなかった。これらのことから、MreBとPBP1Bの同時欠損による溶菌現象には、溶菌酵素MltBとMipAタンパク質、Mg^<2+>イオンが関与していることが明らかとなった。これらの知見は、新たな抗菌薬開発の手掛かりになることが期待される。解析の過程で分離した温度感受性mreB変異株について、間接免疫蛍光染色により細胞内のMreBの局在を調べたところ、らせん状構造体が温度のシフトアップにより破壊されることがわかった。この変異株はMreBの機能解析のツールとなることが期待される。
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