細胞分裂には分裂装置の形成と同時に細胞質膜の合成が必要である。我々は、脂質合成系酵素と細胞分裂関連タンパク質の網羅的相互作用解析の結果、FtsA等複数の分裂関連因子と相互作用が見られたPlsXに着目した。PlsXは脂質合成の初期反応を司る必須酵素グリセロール-3-リン酸アシル基転移酵素である。PlsX-GFPを作製して局在を観察したところ、細胞極や分裂予定域、表層にドット状やリング状、スパイラル状に局在しており、FtsAやFtsZの局在と一部酷似していた。一方plsXの発現誘導株および温度感受性株を取得し、FtsA-およびFtsz-GFPの局在を観察したところ、PlsXの欠損により、FtsAの局在は影響を受けないがZ-ringの形成には異常が見られ、分裂予定域への局在が減少した。このことから、FtsAがFtsZを膜にアンカーして分裂予定域に収縮させていく作用にPlsXが関与していることが示唆された。以上の結果より、脂質の合成酵素が確かに細胞分裂の制御に関わっていることを示唆することが出来た。次年度においては更に詳細な分子機構について解明していく。 一方、我々は上記網羅的相互作用解析の結果、TCA回路の一酵素も類似の挙動を示し、その変異株は分裂異常を起こすと共に球菌化細胞が出現することを見出した。さらに、本酵素の変異株を解析する中で、胞子形成の欠損した株も得られた。これらの結果は、細胞内のエネルギー状態等を感知しながら細胞分裂、すなわち増殖を制御し、対数増殖後期には胞子形成への移行との判断を司る機能ネットワークの存在が示唆された。
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