研究課題
オキシトシン(OXT)は脳下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンであり、その受容体(OXTR)は、広範囲の組織で発現している。Oxytocin receptor (Oxtr)遺伝子欠損 (Oxtr-/-)マウスには、社会行動や母性行動の低下が見出された(Takayanagi,Y et al., 2005)。さらに、当時の未発表実験データで、母性行動の低下したOxtr-/-マウスのマウス脳のLS(外側中隔)およびMPOA(視索前野)領域で、野生型に比べてを示すc-fos活性(ニューロン活性化)の低下を確認していた。一方、当研究室の吉田らはOXTR遺伝子直下に蛍光蛋白のVenusを挿入したOxtr Venusマウスを開発、母性行動に関連すると思われるMPOAやLSでOXTR遺伝子の発現していることを確認した(Yoshida,M, et al, 2009)。さらにその後、本研究室で佐藤・青柳らにより脳へOxtr遺伝子する為のAAVウィルスベクターを開発しており、母性行動制御に関わる領域について、このOxtr-venus-AAVベクターの注入感染により、OXTRによる母性行動のレスキュー実験を行う準備が整った。ステレオタキシックとマイクロポンプを利用し、Oxtr-/-マウス頭部にOxtr-venus-AAVベクターをを注入感染させたところ、LS(外側中隔)領域では快復妊娠後に。出産時母性行動の回復が見られ、野生型に近い表現型が観察できた。しかし、fx(コンディショナル)型OXTR遺伝子欠損マウスのLS領域にAAV-Creマウスを注入し、出産時母性行動の障害が見られるかを観察した実験では、有意な母性行動の低下は見られなかった。これは、OXTR遺伝子存在下で形成された母性行動制御神経回路が、形成後OXTRが失われても維持されるか、或いは、OXTR依存性の母性行動制御回路がLS以外にも存在し、バックアップをしている、等のメカニズムの存在を示唆している。一方、OXTR-/-マウスの低温暴露後の体温低下の解析により、寒冷時の熱産生を制御する褐色脂肪細胞(BAT)の形態異常と体温調節能の低下を見出した。詳細に解析を行ったところ、野生型マウスの低温暴露時には縫線核の尾側縫線核群に属するNRM(大縫線核)OXTR遺伝子発現ニューロンが活性化し、OXTR-/-マウスの同領域は低温暴露時にも活性化しないことが明らかとなった。このOXTR遺伝子発現ニューロンはグルタミン酸型のものであることも明らかとなった。これより寒冷時のOXT→OXTR→グルタミン酸(→褐色脂肪組織?)と言う回路の存在が示唆された。これらの結果は現在投稿中、及び投稿準備中である。
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http://www.biochem.tohoku.ac.jp/bunsi/index-j.html